競馬と恋心
阪神ジュベネネフィリーズの夜、妖艶な夜の帳が下りる、寂れた街の一角。バー「夜蝶」の店内は、薄暗い照明とジャズの調べが心地よく響き渡っていた。
カウンターには、32歳のバーのママ、美咲が立ち、常連客の相手をしていた。その妖艶な佇まいで、男たちを夢中にさせる美咲は、今夜もどこか物憂げな表情を浮かべている。そんな美咲の視線の先には、25歳の証券マン、祐一の姿があった。優柔不断な性格で、何かと悩んでいる様子の祐一は、いつも通りのジンリッキーを片手に、競馬新聞を眺めていた。
「祐くん、今日はどうしたの?いつもよりお疲れのようね」
美咲が声をかけると、祐一は顔を上げてぼんやりと答えた。
「あぁ、そうだな。今日は阪神ジュベネイルフィリーズがあってね。アルマヴェローチェが勝ったんだ」
「へぇ、アルマヴェローチェね。なかなか面白い名前ね」
美咲は、祐一の言葉に軽い興味を示す。競馬には詳しくないが、祐一の話を聞くのが好きだった。「そうなんだ。実は、俺、テリオスララに賭けてたんだよ。でも、3着だった」祐は少し落胆した様子で、グラスを傾けた。
「まぁ、そんなこともあるわよ。次はもっと上手くいくかもしれないじゃない」美咲は優しく祐を慰める。
しばらくして、祐は顔を真っ赤にして、カウンターに突っ伏してしまった。どうやら、競馬の興奮とアルコールのせいで、意識を失ってしまったようだ。
「祐くん、祐くん!」
美咲は慌てて祐を揺り起こそうとするが、祐は起きる気配がない。
「…ララ…」祐は、意識がもうろうとしているのか、寝言のようにつぶやいた。

「ララ?誰のこと?」
美咲は不思議に思い、祐の顔を覗き込む。しばらくして、祐はようやく目を覚ました。
「あ、美咲さん。すみません、寝てしまって…」
「大丈夫?もう帰った方がいいんじゃない?ララさんに看病してもらった方が」
美咲は、わざとらしく笑って言う。
「ララは馬の名前なんですけど…」祐は慌てて説明するが、美咲は聞く耳を持たない。
「あら、そうなの?でも、ララって名前、可愛いじゃない。もしかして、お気に入りの牝馬なの?」
美咲は、ますます祐をからかう。
「そんなわけないじゃないですか。テリオスララですよ」祐は、何度も弁解するが、美咲は嫉妬したような態度で、祐をからかい続ける。
「ふふ、祐くんったら可愛いわね。もしかして、ララさんに恋しちゃったの?」
美咲の言葉に、祐は顔を真っ赤にして、何も言えなかった。
その夜、祐は美咲の言葉がずっと頭から離れなかった。もしかしたら、美咲は自分のことを本気で好きなのではないか。それとも、単なる遊び心なのか。祐は、複雑な気持ちを抱えながら、バー「夜蝶」を後にした。寂れた街の夜空には、無数の星が輝いていた。祐は、その星を見上げながら、自分の未来について考えを巡らせていた。