あの日の七夕賞、大波乱の主役はメドウラーク!丸田恭介と、心温まる傘の女性のワンシーン

2018年7月8日、福島競馬場を舞台に行われた七夕賞は、競馬の奥深さと予測不能なドラマを私たちに見せつけました。単勝11番人気のメドウラークが、重い馬場をものともせず突き抜け、256万馬券という大波乱を演出。その勝利の立役者である丸田恭介騎手が勝利インタビューに臨む際、強風の中で必死に傘を支え続けた一人の女性の姿がありました。今回は、あの日の興奮と感動を呼び起こす、メドウラークの奇跡的な勝利と、そこに彩りを添えた心温まるワンシーンを振り返ります。

悪夢の七夕賞を制した、メドウラークの真実

2018年7月8日、福島競馬場で行われた第54回七夕賞(G3)は、多くの競馬ファンにとって忘れられない大波乱のレースとなりました。単勝11番人気(支持率100.8倍)のメドウラークが、馬場の外から鮮やかな末脚を繰り出し優勝。2着には4番人気のマイネルサージュ、そして3着には殿人気となる12番人気(支持率138倍)のパワーポケットが飛び込み、単勝万馬券、3連単では256万馬券という高配当が飛び出しました。

予想を覆したレース展開

レース当日の馬場は「良」と発表されていましたが、実際にはキックバックが激しく、馬が脚を取られるような緩んだ状態でした。向こう正面では各騎手が良いコースを探して右往左往し、馬たちはぬかるむ馬場に苦戦しながらも、1000m通過58.2秒というハイペースでスタミナを消耗していきました。このハイペースのさなか、残念ながら一人の騎手が落馬するというアクシデントが発生しました。幸いにも他馬を巻き込む最悪の事態は免れましたが、レースの緊迫感を一層高める出来事でした。

泥濘を味方につけた快走

最後の直線では馬場の真ん中を人気のサーブルオール(戸崎圭太)は必死に叱咤激励するも、まったく伸びない。藻掻いている人気馬を尻目にメドウラークの丸田恭介は不謹慎にも鼻歌混じり…嫌、実際はそうではなかったかも知れない…見た目とは裏腹に、まるで水を得た魚のように芝の上を滑走するかのようなメドウラーク。
隣を走る津村明秀騎手のマイネルサージュをまったく気にするそぶりもなく、気持ち良さそうに突き進みます。メドウラークは、この泥濘(ぬかるみ)の感触を四肢いっぱいに感じ、蹄から伝わる何とも言えない「ぬめり」を味わいたかったかのようでした。
しかし、気がつけばメドウラークの馬体はゴールを駆け抜けていました。2着のマイネルサージュとの差は首差。形の上では接戦でしたが、その内容は完勝と言えるものでした。そして3着には、元祖「穴男」江田照男騎手のパワーポケットが飛び込み、まさに大波乱を決定づけました。この2018年の七夕賞は、メドウラークの鮮やかな勝利と、その裏に隠されたいくつものドラマが交錯した、忘れられない一戦として語り継がれることでしょう。

余談ですが、JRAの勝利騎手インタビューを丸田恭介騎手が受けている時に、傘を丸田恭介騎手にかけていた女性は強風にも負けず必死に傘が飛ばされないようにと、緊張した表情が素敵でした。

メドウラークの血統解説

2018年の七夕賞を制したメドウラークの血統は、個性的な父系と堅実な母系が組み合わさった、興味深い配合をしています。

父系

父:タニノギムレット
メドウラークの父は、2002年の日本ダービー馬タニノギムレットです。彼は、競走成績もさることながら、種牡馬としても多くの活躍馬を輩出しています。
ブライアンズタイム系
タニノギムレットは、アメリカで生まれ、日本で活躍したブライアンズタイムの直系にあたります。ブライアンズタイムは、サンデーサイレンス全盛期に多くの活躍馬を出し、「サンデーサイレンスの対抗馬」とも言われる存在でした。
彼の父は、ナスルーラ系の異端児とされるRoberto。Robertoは、決して大柄ではありませんでしたが、類稀な勝負根性とスタミナを武器に活躍しました。ブライアンズタイムもそのRobertoの勝負根性を色濃く受け継ぎ、日本ダービー馬ナリタブライアンをはじめ、多くのG1馬を輩出しました。タニノギムレット自身も、ブライアンズタイム産駒らしく、重厚なスタミナと勝負根性を持ち合わせていました。メドウラークも、この父から粘り強い末脚を受け継いだと言えるでしょう。
母タニノクリスタル
タニノギムレットの母はタニノクリスタルです。彼女はクリスタルパレスを父に持ち、母父はタニノシーバードという血統です。この部分は、タニノギムレットに底力と日本の馬場への適応力をもたらしていると考えられます。


母系

母:アゲヒバリ
メドウラークの母はアゲヒバリです。彼女は、日本で大成功を収めたクロフネ系に属します。クロフネ系アゲヒバリの父は、芝・ダート兼用の活躍馬を多数輩出したクロフネです。
クロフネ自身は、ダートで圧倒的な強さを見せたものの、芝のG1も制覇した二刀流のパイオニアです。彼の父は、アメリカの快速馬French Deputy。French Deputyは、スピード能力に優れた産駒を多く出し、そのスピードがクロフネにも受け継がれました。
アゲヒバリの母は、名牝トゥザヴィクトリーです。トゥザヴィクトリーは、サンデーサイレンス産駒で、数々のG1レースで好走し、引退後は繁殖牝馬としても成功を収めました。彼女の母はフェアリードールで、堅実な血統背景を持っています。この母系の影響により、メドウラークには、スピードと底力がバランス良く備わっていると考えられます。
まとめ
メドウラークの血統は、父タニノギムレットから受け継いだRoberto系由来のスタミナと勝負根性、そして母アゲヒバリのクロフネ系が持つスピードと、サンデーサイレンス系を通じた堅実な底力が融合しています。この配合が、あの七夕賞での粘り強い走りと、タフな馬場での適応力を生み出したと言えるでしょう。まさに、様々な要素が奇跡的に噛み合った結果が、彼のあの日の勝利に繋がったのだと考えられます。


メドウラークの母アゲヒバリの母であるトゥザヴィクトリー

日本競馬史にその名を刻む名牝の一頭

競走馬としても繁殖牝馬としても、非常に優れた実績を残しました。
競走馬としてのトゥザヴィクトリートゥザヴィクトリーは、1996年2月22日にノーザンファームで生まれました。父はあのサンデーサイレンス、母はフェアリードールという良血馬です。池江泰郎厩舎に所属し、多くのレースで武豊騎手、四位洋文騎手などが騎乗しました。彼女の競走馬としての特徴は、その堅実な先行力と、ここぞという時の勝負根性にありました。決して爆発的な切れ味を持つタイプではありませんでしたが、常に上位争いに加わる安定感がありました。


主な活躍

2001年 エリザベス女王杯 (GI) 優勝:
彼女のGI初制覇であり、唯一のGI勝利。このレースでは、武豊騎手の好騎乗もあり、見事な勝利を飾りました。
2001年 ドバイワールドカップ (GI) 2着:
海外の最高峰ダートレースで、世界の強豪相手に堂々の2着に入り、その実力を世界に示しました。この時の鞍上も武豊騎手でした。
GIレースでの好走多数:
エリザベス女王杯優勝の他にも、桜花賞3着、優駿牝馬(オークス)2着、フェブラリーステークス(ダートGI)3着・4着、有馬記念(GI)3着など、数々のGIレースで惜敗しながらも上位争いを演じました。
重賞4勝:
エリザベス女王杯以外にも、クイーンステークス(GIII)、府中牝馬ステークス(GIII)、阪神牝馬特別(GII)と、牝馬重賞を複数制覇しています。特に、2001年のエリザベス女王杯では、先行争いが激化する中、武豊騎手が敢えて馬群から離れた位置取りをとり、トゥザヴィクトリーの気性の荒さを考慮して折り合いをつけるという「神騎乗」を見せたことでも有名です。この勝利によって、彼女は2001年JRA賞最優秀4歳以上牝馬を受賞しました。
引退するまでの通算成績は21戦6勝。
芝・ダートを問わず活躍し、特にダート適性の高さは、ドバイワールドカップでの好走からも明らかでした。繁殖牝馬としてのトゥザヴィクトリー競走馬として素晴らしい実績を残したトゥザヴィクトリーは、繁殖牝馬としても「名牝」と称されるほどの成功を収めました。彼女はノーザンファームで繁殖生活を送り、多くの子孫たちがターフを賑わせました。


主な産駒

トゥザグローリー:
父キングカメハメハ。京都記念、日経賞、日経新春杯、鳴尾記念など、重賞を複数制覇。有馬記念でも2年連続3着に入るなど、長きにわたって活躍しました。
トゥザワールド:
父キングカメハメハ。皐月賞2着、有馬記念2着など、GIで惜敗しながらもトップクラスの能力を示しました。
トーセンビクトリー:
父キングカメハメハ。中山牝馬ステークスなど重賞を制しました。
アゲヒバリ:
メドウラークの母。トゥザヴィクトリーの産駒の中では地方での活躍が主でしたが、優秀な繁殖牝馬となり、メドウラークを輩出しました。彼女の産駒は、父サンデーサイレンスの血を受け継ぎながらも、多様な種牡馬との配合によって、芝・ダート、距離の長短を問わず、様々なタイプで活躍を見せました。
特にキングカメハメハとの相性が良く、「トゥザ」を冠する活躍馬を多数輩出し、「トゥザ系」という一大勢力を形成するに至りました。2023年5月14日に27歳で惜しまれつつ亡くなりましたが、その血は今も多くの活躍馬へと受け継がれ、日本競馬に多大な影響を与え続けています。トゥザヴィクトリーは、まさに「血の力」を体現した名牝であり、その存在はこれからも語り継がれることでしょう。

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