妖艶な雰囲気が漂うバー「夜蝶」のカウンターで、競馬雑誌を読み込む美咲ママ。そのしなやかな指がページをめくるたびに、競馬記者の顔が垣間見える。競馬の祭典、ダービーを前に、25歳の証券マン・祐一はいつものように優柔不断な表情で頭を悩ませていた。しかし、美咲ママは過去10年の膨大なデータを紐解き、今年のダービーの流れを冷静に分析する。果たして、波乱か順当か、極端な結果に終わることが多いダービーで、美咲ママが導き出す本命と、秘かに狙う激走穴馬とは?そして、祐一の競馬予想に、美咲ママの分析がどんな光をもたらすのか。
波乱か順当か、極端な結果に
ダービーの過去10年を見ても…
「ダービーの過去10年を見ても、本当に両極端な結果が出てるのよね。
1番人気が2勝、連対率50%、複勝率70%と安定しているかと思えば、去年のダノンデサイルや19年のロジャーバローズみたいに、人気薄の一発もある。特に、去年の9番人気→1番人気→7番人気の決着なんて、まさに波乱の象徴よ」美咲は意味深に微笑む。
「2着馬は上位5番人気以内が多いんだけど、3着馬は16番人気まで飛び出すことがあるの。近7年連続で6番人気以下の伏兵が絡んでるから、今年も何か起こるかもね。配当も18年には3連単で285万6300円なんて大波乱もあったし、かと思えば3万円未満が過半数の6回。だから、波乱か順当か、どちらかに振り切れることが多いのよ」
皐月賞組の注目点
ダービーといえば、やっぱり皐月賞組
「ダービーといえば、やっぱり皐月賞組が中心になるわね。
出走馬の半分以上がここから来ていて、10年で7勝も挙げてる。今年も2、3着馬は皐月賞組だったし、毎年必ずと言っていいほど2頭は3着以内に入ってるわ」美咲は熱を込めて語る。
「ただね、皐月賞組でダービーで好走する馬には共通点があるの。23頭中19頭が、前走の皐月賞で5番人気以内に支持されていたこと。それと、もっと重要なのが、芝中距離の重賞実績よ。皐月賞を含めて、過去に芝1800m~2000mの重賞を勝った経験がある馬が23頭中18頭と、圧倒的に多いの」美咲は手元の資料に目を落とし、さらに続けた。
「今年の皐月賞組で言えば、ミュージアムマイルは皐月賞勝ち、クロワデュノールはホープフルと東スポ杯、マスカレードボールは共同通信杯、サトノシャイニングはきさらぎ賞、ニシノエージェントは京成杯と、ちゃんと重賞を勝ってるわね。これはしっかりチェックしておくべきポイントよ」
別路線組は前走連対が必須
皐月賞組以外にも、ダービーに駒を進めてくる馬はいるわ。
「皐月賞組以外にも、ダービーに駒を進めてくる馬はいるわ。
京都新聞杯組からは19年のロジャーバローズが勝ってるし、毎日杯組からは21年のシャフリヤール、京成杯組からは去年のダノンデサイル。でもね、これらの馬はみんな前走で勝利しているのが共通点なの」美咲はきっぱりと言い放つ。「逆に、トライアルの青葉賞組は【0.0.2.19】で、連対馬が出ていない。3着に来た2頭も青葉賞で2番人気以内だった。
だから、青葉賞組のファイアンクランツなんかは、データ的にはちょっと割引が必要ね。プリンシパルS組のレディネスは18年に16番人気で3着に激走したコズミックフォースみたいに、一発の魅力はあるかもしれないけど。あと、NHKマイルC組は【0.0.0.16】と全くダメ。皐月賞以外の組でダービーで好走した馬は、全員前走で連対してるわ。祐一くん、ここ、重要よ」
継続騎乗と馬番1番に注目
騎手もね、実はけっこう重要視
「騎手もね、実はけっこう重要視されるの。前走から継続騎乗の馬が過去10年で8勝を挙げてるのに対して、乗り替わりだと2勝しかしてないの。
複勝率も継続騎乗が22.0%、乗り替わりが6.7%と、差は歴然よ」美咲は少し心配そうに付け加えた。「今年は有力馬に乗り替わりが多いのよね。皐月賞馬のミュージアムマイルはモレイラが帰国したからD.レーン、マスカレードボールも横山武史から坂井瑠星、ファイアンクランツはモレイラから佐々木大輔。他にもショウヘイ、サトノシャイニング、エムズ、カラマティアノスと、軒並み主要な馬が乗り替わりになってるから、これは注意が必要ね」
「馬番もね、実は面白いデータが出てるのよ。最内の1番が【1.2.1.6】で複勝率40.0%。ロジャーバローズも1番で勝ってるし、10頭中7頭が4着以内に入ってるから、これは要チェックよ。あと、12番も【2.2.0.6】で複勝率40.0%と好成績。逆に、2番、9番、16番は好走馬が出てないから、もし有力馬がここに入ったら、ちょっと割り引いて考えた方がいいわね」
ママ美咲のダービー本命馬:ミュージアムマイル
美咲はグラスの底に残る琥珀色の液体を揺らし、意味深に微笑んだ。「祐一くん、私の本命はね、やっぱりミュージアムマイルよ」
祐一は驚いたように目を見開いた。「え、でも、美咲さん、さっき乗り替わりはマイナス要因だって…」美咲は小さく首を傾げ、艶やかな声で諭す。「ふふ、祐一くん。確かにデータ上はそう。でもね、今年はちょっと事情が違うのよ。何より、モレイラ騎手が帰国してるんだから、騎乗は不可能。それよりも、今年のG1戦線を見ても、外国人騎手の活躍が本当に目覚ましいじゃない?
彼らは日本の競馬への適応力も高いし、何よりも勝負強い。だから、今回のD.レーン騎手への乗り替わりは、決してマイナス要因にはならないわ。むしろ、新たな化学反応で、ミュージアムマイルの真の力が引き出される可能性だってある。それに、皐月賞馬という実績は揺るがないわ」美咲は祐一の瞳を真っ直ぐに見つめ、自信に満ちた笑みを浮かべた。その瞳の奥には、長年培ってきた競馬への深い洞察力が宿っていた。「さあ、祐一くん。私の本命馬も決まったことだし、あなたのダービーの夢、私と一緒に叶えてみない?」
美咲ママが狙う激走穴馬は…?
本命だけじゃ物足りないでしょう?
美咲は、意味ありげに視線を祐一に移した。「さて、祐一くん。本命だけじゃ物足りないでしょう?ダービーには、たまに大穴を開ける馬がいるものよ。私が密かに狙っている激走穴馬がいるの。
それはね…カラマティアノスよ」祐一は首を傾げた。「カラマティアノスですか?皐月賞は10着でしたよね?」美咲はにこやかに頷いた。
「ええ、そうよ。でもね、競馬には『ダービー馬はダービー馬から』っていう有名な格言があるでしょう?17年のダービー馬、レイデオロの産駒が今年は2頭も登録されているの。去年はサンライズアースがレイデオロ産駒として初めてダービーに出走して4着と好走したわ。そして、このカラマティアノスもその血を引くのよ」美咲はさらに言葉を続けた。
「皐月賞は10着だったけど、この馬、東京コースとの相性が抜群なの。共同通信杯では2着に入っているし、昨年12月に中京で快勝した『こうやまき賞』の勝ち馬には、14年のオークス馬ヌーヴォレコルトがいるのよ。祐一くん、こういう馬こそ、穴党にはたまらないと思わない?」美咲は妖しく微笑み、祐一の競馬ノートにそっと視線を落とした。「さあ、祐一くん。私の本命馬も決まったことだし、あなたのダービーの夢、私と一緒に叶えてみない?」