ハープスター、伝説への序章:2014年札幌記念、強者たちの頂へ|競馬-神がかり

競馬ファンを熱狂させた2014年の夏、札幌競馬場に一頭の牝馬が降り立ちました。約1年10か月の改修工事を終え、新スタンドがオープンしたばかりの真新しい舞台。そこに現れたのは、桜花賞馬ハープスターでした。彼女の挑戦は、単なる夏競馬の一戦ではありませんでした。

後にGIホースとなる強者たちが集結した「スーパーGII」を、ハープスターはいかにして制したのか。伝説のレースを振り返り、その強さの秘密に迫ります。このレースは、2014年札幌記念(GII)、札幌競馬場芝2000mで行われ、ハープスターをはじめ、ゴールドシップ、トウケイヘイロー、ロゴタイプといった錚々たるメンバーが出走していました。

2014年札幌記念概要

第1章:”スーパーGII”、強者たちが集う舞台

2014年札幌記念は、ただのサマーシリーズの一戦ではありませんでした。後に「スーパーGII」と称されるほど、豪華なメンバーが顔を揃えたのです。

桜花賞馬としてこの舞台に降り立ったハープスターは、優駿牝馬と阪神ジュベナイルフィリーズで2着となるなど、その圧倒的な末脚でクラシックを席巻していました。

迎え撃つは、前年の宝塚記念を制しG1を5勝して、この年の秋には凱旋門賞にも挑戦した個性派の最強馬、ゴールドシップです。

さらに、2013年の鳴尾記念から函館記念、そして札幌記念と逃げて重賞3連勝を果たしたトウケイヘイローも参戦。特に前年の札幌記念では重馬場の中、2着に6馬身差をつける圧勝を収めており、洋芝適性は折り紙つきでした。

また、この年の皐月賞馬であり、朝日杯も制していたロゴタイプも出走。彼はこの後、安田記念で単勝1.7倍という圧倒的1番人気だったモーリスを抑えて勝利し、G1・3勝馬となる実力者でした。

これほどのメンバーが札幌に集結したのは、各陣営の秋の大舞台を見据えた思惑が背景にありました。ハープスターとゴールドシップは凱旋門賞挑戦を視野に入れたローテーション、ロゴタイプは秋のGIに向けた始動戦、そしてトウケイヘイローも今後の戦いを見据え、それぞれが最適な舞台としてこの札幌記念を選んだのです。

引退後、ゴールドシップ、ロゴタイプとトウケイヘイローが種牡馬として活躍していることからも、いかにこのレースの出走馬たちのレベルが高かったかがわかります。まさに、後の競馬史を彩る名馬たちが、夏の洋芝で激突する夢のような一戦でした。

第2章:レース展開の分析とハープスターの走り

2014年札幌記念は、トウケイヘイローが作り出したハイペースを、ロゴタイプや他多数といった有力馬が好位から追走する展開で始まりました。

一方、ゴールドシップ、ハープスターはいつものように後方からレースを進めます。勝負の分かれ目は3コーナーから4コーナーにかけてでした。ハープスターは鞍上の川田将雅騎手のエスコートで、大外から一気にポジションを押し上げる「まくり」を敢行します。

すると、その動きを察知したかのように、ゴールドシップも最後方からハープスターの真後ろにつけ、共に進出を開始。直線入り口では、鹿毛のハープスターと芦毛のゴールドシップという、日本競馬史に残る2頭が馬体を並べる、息をのむような光景が繰り広げられました。

そして迎えた最後の直線。先に抜け出したのは、軽量52kgの斤量を味方につけたハープスターでした。対するゴールドシップは57kg。斤量差は実に5kg。普通であれば、この差は致命的です。しかし、この日のレースは違いました。後方から猛然と追いすがるゴールドシップ。

しかし、その差は一向に縮まりません。追えば追うほど、ハープスターの影は遠ざかっていくかのよう。まるで、夕陽に照らされた自分の影を追いかけているかのような、永遠に届かない幻の追走劇。

鹿毛の女王と芦毛の王者が織りなす夢のような激走が、観客の目に焼き付いたのです。

この日の勝利は、単なる着順以上の意味を持つものでした。ハープスターが、並み居る強敵を相手に、いかなる展開でもその力を発揮できることを証明した、まさに伝説の一戦であり、女王の座を盤石なものとしたのです。

第3章:勝利が持つ意味

2014年札幌記念でのハープスターの勝利は、単なる一重賞勝ち以上の大きな意味を持っていました。それは、牡馬のトップクラスを相手に、牝馬の強さを改めて証明した瞬間でした。

当時の牝馬戦線は、このハープスターを筆頭に、ジェンティルドンナやショウナンパンドラといった歴史的名牝がしのぎを削っており、そのレベルの高さは世界でもトップクラスでした。

そんな時代を象徴するかのように、ハープスターは名だたる牡馬たちを退け、真の女王の座を確固たるものにしたのです。この勝利は、ハープスター陣営に確信を与え、かねてから目標としていた凱旋門賞への挑戦を決定づける大きなきっかけとなりました。

日本ダービー出走も検討された彼女のポテンシャルは、この札幌記念で牡馬相手に勝利したことで、世界の舞台でも通用するだろうという期待へと変わったのです。レース後、関係者の言葉からもその喜びと手応えが伝わってきます。

松田博資調教師は「強い競馬をしてくれた」と愛馬を称え、鞍上の川田将雅騎手も「(凱旋門賞の)権利を取れたことが何より」と、この勝利が次なる挑戦への扉を開いたことを強調しました。ハープスターの真の強さを証明したこの一戦は、彼女の伝説的なキャリアにおいて、忘れられない通過点となったのです。

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ハープスターの血統

ハープスターの血統解説​:ハープスターの血統は、日本競馬界を代表するサンデーサイレンス系の父と、欧州の血が流れるノーザンファミリーの母という、配合の妙が光る構成になっています。

父系:ディープインパクト(サンデーサイレンス系)

父のディープインパクトは、

言わずと知れた近代日本競馬の結晶です。その父サンデーサイレンスは、アメリカから日本に輸入され、日本の競馬を一変させた種牡馬です。その血はスピードと瞬発力に富み、数々の名馬を輩出しました。​ディープインパクト自身も、無敗のクラシック三冠を達成するなど、圧倒的な強さと美しい走りで多くのファンを魅了しました。彼の産駒は、その爆発的な末脚を受け継ぎ、芝の中距離で特に強さを発揮する傾向にあります。ハープスターの代名詞である「規格外の末脚」は、まさに父ディープインパクトから受け継いだものです。

母系:ヒストリックスター(ノーザンダンサー系)

​母のヒストリックスターは、

日本に根付いたノーザンダンサー系の血を引く牝馬です。

母父であるファルブラヴは、欧州で活躍した名馬で、特に芝の中距離で優れた実績を残しました。​ヒストリックスターの母(ハープスターの祖母)であるベガは、桜花賞とオークスを制した二冠馬であり、繁殖牝馬としても成功を収めた名牝です。その血統は、父トニービン、母アンティックヴァリューへと遡り、欧州の重厚なスタミナと日本の高速馬場に対応できるスピードを兼ね備えた血統です。​

ハープスターは、この母系の優れたスタミナと、父ディープインパクトの瞬発力が見事に融合したことで、どんな馬場や展開でも能力を発揮できる万能性を手に入れたと言えるでしょう。

基礎輸入牝馬アンティックヴァリュー

日本の競馬史に名を刻む数々の活躍馬を輩出してきた名牝系「ベガ一族」の祖です。

彼女の血は娘のベガを通じて広がり、その子孫たちは現在も日本の競馬界で大きな存在感を示しています。​特に有名な活躍馬を、世代ごとに見ていきましょう。

娘(ベガ)の世代

ベガ:アンティックヴァリューの娘で、1993年の桜花賞とオークスを制した二冠牝馬です。彼女自身が偉大な競走馬であり、この牝系の基礎を築きました。​

孫の世代​

アドマイヤベガ:ベガの初仔で、1999年の日本ダービーを制覇。母娘二代でクラシックを制したことで、この牝系の名声を一気に高めました。​

アドマイヤドン:ベガの産駒で、ダート・芝両方で活躍しました。朝日杯フューチュリティステークス(芝)とフェブラリーステークス(ダート)を制し、異なる路線のGIを勝利した数少ない名馬です。GI級競走を計7勝する偉業を成し遂げました。​

曾孫の世代​

ハープスター:アドマイヤベガの異父妹であるヒストリックスターの娘で、2014年の桜花賞を制した牝馬です。この一族に受け継がれる類まれな末脚は、彼女の代でも健在でした。

サトノノブレス:アドマイヤベガ、アドマイヤドンの従兄弟にあたる馬で、日経新春杯や中日新聞杯など重賞を4勝しました。​アンティックヴァリューから始まるこの血統は、クラシックから古馬のG1まで、そして芝からダートまで、幅広い舞台で活躍する名馬を輩出しています。

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まとめ

​2014年札幌記念は、単なる夏のGIIレースではありませんでした。それは、ハープスターという一頭の歴史的名牝が、その真価を世界に示した記念碑的な一戦でした。豪華なメンバーが揃った「スーパーGII」を制した彼女の姿は、多くの競馬ファンの心に深く刻まれ、語り継がれるべき伝説の始まりを告げました。あの夏の札幌で輝いた一瞬のきらめきは、今も色褪せることなく、私たちに感動を与え続けています。

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