2004年 札幌記念:記憶を駆け抜けた女王、ファインモーション|競馬-神がかり
2004年夏、洋芝が輝く札幌競馬場。夏競馬の祭典として、数々の強豪が集結するその舞台で、一頭の牝馬が圧倒的な強さを見せつけました。その名はファインモーション。この勝利は、彼女の競走馬生活における重要なターニングポイントであり、多くのファンに感動を与えた一戦でした。この記事では、2004年札幌記念の勝利を中心に、稀代の名牝ファインモーションがどのような背景を持ち、いかにしてこの勝利を掴んだのか、その軌跡を振り返ります。
破竹の6連勝無敗‼️
女王の輝き、ファインモーションとは
ファインモーションは、デインヒル産駒として、デビュー前から大きな期待を背負っていました。その期待に応えるかのように、彼女はデビューから無傷の5連勝を達成。G1秋華賞では単勝1.1倍という圧倒的な人気に応え、2着に3馬身半差をつける圧勝でした。
重賞初挑戦のローズステークス、そして秋華賞、さらに古馬相手のエリザベス女王杯を制し、圧倒的なパフォーマンスで「負けない牝馬」としてのイメージを確立しました。しかし、華々しい活躍の裏で、彼女は古馬になってから苦悩の時期を迎えます。
2002年の有馬記念では、当初回避予定だったものの、ファン投票3位に支持されたことで一転、参戦を表明しました。真偽は定かではありませんが、JRAからの圧力がかかったとの噂も囁かれました。同世代の3歳馬シンボリクリスエスが天皇賞(秋)を制し、ジャパンカップでも3着と大器の片鱗を見せていましたが、彼を2番人気に抑え、ファインモーションが1番人気に推されました。
しかし、レースでは先行するも失速し、5着と惨敗。デビューからの無敗記録は6連勝でストップしました。
ちなみに、私自身は当時シンボリクリスエスは推しでして応援しており、このレースでは2着のタップダンスシチー(13番人気)、3着のコイントス(8番人気)との3連複40,570円を的中させていました。ファインモーションは印から外していた記憶があります。
その後、彼女は善戦はするものの、勝利からは遠ざかり、ファンの中には「もう昔の強さはないのか?」という不安の声が囁かれ始めます。度重なる怪我や体調不良など、順風満帆ではなかった彼女の競走生活。札幌記念は、そんな彼女が再び輝きを取り戻すための、そして陣営とファンが待ち望んだ復活をかけた舞台でした。
2004年 札幌記念:ファインモーション、王者の貫禄示す完勝劇
2004年8月22日、札幌競馬場。第40回札幌記念は、古馬牝馬のトップとして期待されながらも、近走の不振から復活を期すファインモーションが主役でした。この日の札幌記念は、彼女にとって今後のキャリアを占う重要な一戦。
彼女の前に立ちはだかったのは、G1勝利はないものの充実期にあり、重賞4勝を挙げていた5歳牡馬バランスオブゲーム(2番人気)と、重賞2勝に加え、フランスのG1で2着の実績を持つ逃げ馬ローエングリン(3番人気)でした。
単勝2.2倍の1番人気という圧倒的な支持を受けたファインモーションは、この強敵たちを相手に見事な勝利を飾ります。
レース展開:冷静な駆け引きスタートから先頭を奪ったのは、3番人気のローエングリンでした。前半1000mを1分0秒を切るミドルペースで引っ張り、自分のペースに持ち込もうとします。
一方、ファインモーションは鞍上の武豊騎手によって後方に位置取り、脚を溜める作戦に出ました。道中は後方3番手から、コーナーを回るごとに徐々に位置を上げ、最終コーナーでは5番手まで進出。この冷静な位置取りが、後の勝利を決定づけました。
末脚炸裂、ライバルを一蹴最後の直線。逃げるローエングリン、そしてそれをマークするように先行していたバランスオブゲームが粘り込みを図ります。しかし、大外に持ち出されたファインモーションは、別次元の末脚を繰り出しました。
一完歩ごとに加速し、先行勢を次々と抜き去ると、あっという間に先頭へ。最後はバランスオブゲームに半馬身差をつけ、堂々たる勝利を収めました。上がり3ハロン(600m)34.9秒というメンバー中最速のタイムは、彼女の瞬発力の健在ぶりを物語っています。
この勝利が意味するものこの勝利は、ファインモーションが「まだ終わっていない」ことを証明するものでした。怪我や不調に苦しんだ時期を乗り越え、再びトップレベルの舞台で輝きを放った彼女の姿は、多くのファンの心を震わせました。
馬券的にも、上位人気3頭(ファインモーション、バランスオブゲーム、ローエングリン)がそのまま1、2、3着に入線し、馬連・3連複ともに順当な決着となりました。しかし、その中でもファインモーションのレース内容は、単なる人気馬の勝利にとどまらない、王者の貫禄を感じさせるものでした。この日の走りこそ、ファンが待ち望んだ「負けない女王」の姿そのものだったのです。
勝利が意味するもの
この勝利は、ファインモーションが「まだ終わっていない」「女王は健在だ」ということを証明した、価値ある勝利でした。
ゴール後、武豊騎手は彼女の首筋を優しく撫でながら、安堵と喜びの表情を見せました。伊藤調教師もまた、彼女の復活に胸をなでおろしました。長らく彼女の復活を待ち望んでいたファンにとって、この一戦は忘れられない感動と喜びを与えたのです。
札幌記念の勝利は、ただの一勝ではありませんでした。それは、幾多の苦難を乗り越え、再び頂点を目指した一頭の女王の、誇り高き復活劇。ファインモーションという稀代の名牝が、そのキャリアの中で最も輝いた瞬間の一つとして、今もなお多くの人々の記憶に刻まれています。
ファインモーションの血統解説
ファインモーションは、その血統背景から、スピードとスタミナを兼ね備えた優れた競走能力を持つことが示されています。父系と母系にそれぞれ、世界的な名血がクロスしており、その強さの源泉をうかがい知ることができます。
父系:デインヒル(Danzig系)
ファインモーションの父は、世界的に成功した種牡馬である**デインヒル(Danehill)**です。
デインヒルの血統: デインヒルは、ノーザンダンサー系の主流血統である**ダンジグ(Danzig)**の産駒です。ダンジグは、ノーザンダンサーの直仔でありながら、自身は短距離〜マイルで活躍し、そのスピードを産駒に伝えることに成功しました。デインヒルもまた、ヨーロッパでスプリントG1を制した実績を持ちます。
デインヒルの特徴: デインヒルは、非常に優れた種牡馬であり、オーストラリア、ヨーロッパ、北米など世界各地でリーディングサイヤーに輝きました。産駒は芝適性が高く、スピードとパワーを兼ね備えたタイプが多いのが特徴です。ファインモーションの勝負根性や、洋芝で強さを見せた背景には、このデインヒルの血が大きく影響していると考えられます。
クロス: 5代血統表には、ノーザンダンサーの母であるNatalma(USA)が4代父系クロスとして存在します。これは、スピードとパワーを増幅させる効果があるとされ、ファインモーションの優れた競走能力に貢献したと考えられます。
母系:ココット(Troy系)
ファインモーションの母は、**ココット(Cocotte)**です。
彼女の血統は、スタミナと底力を伝える優秀なものです。
ココットの父: ココットの父は、イギリスダービー馬である**トロイ(Troy)です。トロイは、サンデーサイレンス系と相性が良いことで知られるミルリーフ(Mill Reef)**を母の父に持ち、スタミナと粘り強さを伝える血統です。
ファインモーションが長距離でも活躍できたのは、このトロイの血が大きく影響していると言えるでしょう。
ココットの牝系: ココットの母である**ゲイミリー(Gay Milly)は、牝系に遡ると、名牝ゲイリー(Gaily)**につながります。この牝系は、ヨーロッパのG1馬を多数輩出する優れたファミリーであり、ファインモーションの競走能力の高さは、この母系の優秀さによっても裏付けられています。
クロス: 5代血統表には、名馬Petition(GB)が4代母系クロスとして存在します。これも、血統を濃くすることで特定の能力を増幅させる効果があるとされており、ファインモーションの持つ優れた資質に貢献していると推測されます。
まとめ
ファインモーションの血統は、父デインヒルの持つスピードとパワー、そして母ココットの持つスタミナと底力が見事に融合したものです。NatalmaとPetitionのクロスも相まって、彼女は日本の競馬場でもトップクラスの競走能力を発揮することができました。その活躍は、単なる良血馬の勝利ではなく、血統の優れた配合が生み出した結晶と言えるでしょう。
断たれた繁殖牝馬としての未来…

エピローグ
ファインモーションが私たちに残してくれたものは、その圧倒的な強さだけではありません。
度重なる挫折を乗り越え、再び輝きを取り戻した彼女の姿は、多くの人々に勇気を与え続けています。
ファインモーションが札幌記念で見せた輝きは、単なる一勝ではありませんでした。それは、苦難を乗り越え、再び頂点を目指した一頭の女王の、誇り高き復活劇。
その物語は、今も私たちの心に深く刻まれています。
競走馬としての長い現役生活を終えた彼女には、繁殖牝馬としての第二の人生が待っていました。
多くの優秀な子孫を残す基礎牝馬としての役割を期待され、伊藤雄二調教師の助言により、馬主の伏木田達男氏によって購入された経緯もありました。
関係者全員が、彼女の新たな門出を厚い期待を込めて見守っていたのです。しかし、運命は残酷な事実を関係者に突きつけました。その身に※染色体異常を抱えていた彼女には、繁殖牝馬としての可能性が残されていなかったのです。
ですが彼女は残りの人生を自然にまかせ、自然のなかで暮らしているようです
※染色体異常
競走馬の染色体異常ってなに?
私たちの体と同じように、馬の体もたくさんの「染色体」というものでできています。この染色体の中に、馬がどんな姿になるか、どんな能力を持つかといった情報が全部詰まっています。ふつうの馬は、この染色体が決まった数と形をしています。でも、たまに、この染色体の数や形がおかしくなってしまうことがあります。これを「染色体異常」といいます。
どんな問題が起こるの?
染色体異常がある馬は、競走馬として、またお父さんやお母さん馬として、いくつかの問題が起こることがあります。赤ちゃんが産めなくなる一番多いのは、男の子馬が精子を作れなかったり、女の子馬が卵巣(卵子を作る場所)がうまく育たなかったりして、赤ちゃんが産めなくなることです。これを「不妊」と言います。
体が弱くなる筋肉がつきにくかったり、体が小さかったりして、走るための力が十分でないことがあります。そうなると、強い競走馬になるのは難しくなります。
次の世代に問題が起こるかも見た目には健康そうな馬でも、染色体の形が変わっていることがあります。その馬が親になると、産まれてくる赤ちゃんが流産してしまったり、体がうまく育たなかったりする原因になることもあります。このような問題があるため、競走馬の世界では、原因がわからないまま体が弱い馬や、子宝に恵まれない馬がいるとき、この染色体を調べてみることがあるんですよ。