ダート王への序章、衝撃の9馬身差圧勝。アドマイヤドンがエルムSで見せた、伝説の始まり|競馬-神がかり

2003年9月6日、札幌競馬場。夏競馬の熱気冷めやらぬこの日、後のダート界を席巻する一頭の馬が、その圧倒的な力を世界に知らしめた。第8回エルムステークス。人気を集めたその馬は、2着に9馬身という大差をつけてゴールを駆け抜けた。その馬の名はアドマイヤドン。このレースは、彼の競走生活において単なる一勝ではなかった。それは、挫折を乗り越え、新たな才能を開花させた、まさに“伝説の始まり”を告げる一戦だった。

芝のG1馬から、ダートの怪物へ

アドマイヤドンのキャリアは、栄光に満ちたものだった。2歳時には芝のG1朝日杯フューチュリティステークスを制し、最優秀2歳牡馬に輝いた。

しかし、3歳を迎えクラシック戦線へ向かうと、壁にぶつかる。皐月賞7着、日本ダービー6着、菊花賞4着。芝の大舞台では、思うような結果を残すことができなかった。そして、2003年のフェブラリーステークスでは、ダート適性が期待されながらも11着と大敗。

その後、彼は長い休養に入ることになる。約半年後の復帰戦として選ばれたのが、このエルムステークスだった。芝のG1馬でありながら、ダートでの大敗を経験し、ブランク明け。多くの不安要素を抱えながらも、彼はこのレースで信じられないパフォーマンスを見せる。

競馬-神がかり


伝説の9馬身差圧勝

1. 注目馬とレース序盤の展開

2003年のエルムステークスは、

重賞戦線で活躍する強豪馬たちが顔を揃え、特に実績面で抜けていたアドマイヤドンや、ダート路線で安定した成績を残していたプリエミネンス、イーグルカフェなどが人気を集めました。

レースがスタートすると、スマートボーイがハナを切り、タニノゴードン、プリエミネンスらが先行集団を形成。人気のアドマイヤドンは、スタートを五分に出ると、中団の外目を追走し、虎視眈々と好機をうかがっていました。

2. 直線での加速と突き放す勝利

1000mを通過するあたりから徐々にペースが速まり、各馬が動き出す中、アドマイヤドンは安藤勝己騎手のエスコートのもと、外からじわじわと進出を開始。

4コーナーを回って直線に入ると、先に抜け出したタニノゴードンをめがけて一気にスパートをかけます。ゴール前では、先に粘り込みを図るタニノゴードン、外から追い込んできたトシザボスとの壮絶な叩き合いとなりましたが、アドマイヤドンは次元の違う末脚を繰り出し、2着のトシザボスに9馬身差をつける圧倒的なパフォーマンスでゴール板を駆け抜けました。

3. G1への弾みとなった快勝劇

この勝利は…

アドマイヤドンがダートでもトップクラスの実力を持つことを改めて証明するものであり、その後も彼のG1での活躍を予感させるに十分な内容でした。

このレースを制したことで、アドマイヤドンは秋のG1戦線へ向けて大きな弾みをつけ、その年のJBCクラシックとジャパンカップダート(現チャンピオンズカップ)を連勝することになります


エルムSから始まった、ダート王への軌跡

エルムステークスでの圧勝をきっかけに、アドマイヤドンはダート路線でその才能を爆発させていく。

この後、彼は地方交流G1であるJBCクラシックやマイルチャンピオンシップ南部杯を連勝。翌2004年には、中央のダートG1フェブラリーステークスも制覇し、ダート界の頂点へと上り詰めた。

そして、その輝かしい活躍により、彼は2003年、2004年と2年連続でJRA最優秀ダートホースに選出された。芝のG1馬から、ダートの王者へ。

アドマイヤドンは、芝とダートの両方でG1を制した数少ない名馬として、その名を競馬史に刻んだ。そして、そのキャリアのターニングポイントとなったのが、あの9馬身差のエルムステークスだったのだ。今年のエルムステークスを前に、かつて札幌の地で生まれた伝説を、もう一度思い起こしてみてはいかがだろうか。

競馬-神がかり

調教師・馬主・生産者等

経歴と功績松田博資(まつだ ひろよし)

元調教師は、JRA(日本中央競馬会)の歴史に名を刻む名伯楽として知られています。多くのファンからは、その姓と名前の一部からとった「マツパク」という愛称で親しまれていました。松田博資氏は、佐賀県出身で、騎手から調教師に転身した異色のキャリアの持ち主です。

騎手時代: 障害競走を中心に活躍し、1981年に調教師免許を取得しました。

調教師時代: 1983年に栗東トレーニングセンターで厩舎を開業。初年度から重賞を勝利するなど、順調なスタートを切りました。長きにわたる調教師生活の中で、GI競走を数多く制覇し、2006年と2007年にはJRA賞最多賞金獲得調教師にも輝いています。2016年2月28日をもって定年のため引退しました。引退前日のレースでは、通算800勝を達成しています。

主な管理馬

松田博資厩舎からは、多くの名馬が輩出されました。その中には、JRA年度代表馬に輝いた馬や、クラシックを制した名牝など、日本競馬史を彩る馬たちが名を連ねています。

ベガ: 1993年の桜花賞、オークスを制した二冠牝馬。

アドマイヤドン: ダートと芝のGIを制覇した希代のオールラウンダー。

タイムパラドックス: 2004年のジャパンカップダートなどを制したダート王。

アドマイヤムーン: 2007年のジャパンカップなどGI3勝。同年のJRA年度代表馬。

ブエナビスタ: 2010年のJRA年度代表馬で、6つのGIタイトルを獲得した名牝。これらの馬以外にも、牡馬クラシックで好走したドリームパスポートや、GIタイトルこそありませんでしたが重賞で活躍したラストインパクトなど、多くの個性豊かな馬たちを育て上げました。


馬主

近藤利一(こんどう りいち、1942年 – 2019年)は、「アドマイヤ」の冠名で知られるJRAの著名な馬主でした。建築解体業などを手掛ける「合建株式会社」の代表取締役会長を務め、本業で得た潤沢な資金を背景に、多くの良血馬をセリなどで高額で購入し、日本競馬界の一時代を築きました。

競馬における主な功績と特徴

* 「アドマイヤ」の冠名: 所有馬には、英語で「賞賛・感心」を意味する「Admire」に由来する「アドマイヤ」を冠名としていました。所有馬の多くは、自身のイニシャルである「RK」の刺繍が入ったメンコを着用していました。

競馬における主な功績と特徴 *

「アドマイヤ」の冠名: 所有馬には、英語で「賞賛・感心」を意味する「Admire」に由来する「アドマイヤ」を冠名としていました。所有馬の多くは、自身のイニシャルである「RK」の刺繍が入ったメンコを着用していました。

代表的な所有馬:

アドマイヤベガ: 1999年の日本ダービーを制覇し、近藤氏にダービーオーナーの称号をもたらしました。

* アドマイヤドン: 地方・中央合わせてG1を7勝した名馬で、近藤氏の所有馬の中で最も多くの賞金を獲得しました。

* アドマイヤムーン: 2007年のドバイデューティーフリー(現ドバイターフ)で海外G1初制覇を達成し、宝塚記念も制しました。

* アドマイヤマーズ: 2018年の朝日杯フューチュリティステークス、2019年のNHKマイルカップ、香港マイルを制し、近藤氏の晩年の看板馬となりました。

* その他、アドマイヤコジーン、アドマイヤジュピタ、アドマイヤリード、アドマイヤラクティなどがG1を制しています。

* 豪快な馬主像: 高額な馬を多数落札するなど、その豪快な馬主ぶりは競馬界で常に注目を集めていました。特に、金子真人、関口房朗の2名と合わせて、それぞれの頭文字から「キンコンカン」と呼ばれることもありました。

* 調教師・騎手との関係: 橋田満調教師を重用するなど、特定の調教師との関係が深かった一方、トップジョッキーの武豊騎手とは、騎乗を巡る対立から縁が切れた時期があったことでも知られています。

* リーディングオーナー: 2005年には、GI競走21レースのうち15レースに所有馬を出走させ、個人馬主としてはリーディングオーナーランキングで1位を獲得するなど、その存在感は際立っていました。近藤氏は2019年に77歳で亡くなりましたが、その死後も「アドマイヤ」の冠名は妻の近藤旬子氏に引き継がれ、現在も競馬界で活躍を続けています。


生産者

ノーザンファーム

ノーザンファームは、北海道勇払郡安平町にある日本を代表する競走馬の生産・育成牧場です。社台グループの中核をなし、世界の競馬界でもトップクラスの規模と実績を誇ります。

主な特徴は以下の通りです。

世界トップレベルの生産育成: ディープインパクト、アーモンドアイ、イクイノックス、クロノジェネシスなど、数々のGI馬や歴史的名馬を生産・育成し、国内外の主要レースで圧倒的な成績を収めています。

一貫生産体制: 繁殖牝馬の管理から、仔馬の誕生、初期馴致(馬を人に慣らすこと)、本格的な育成調教、そしてトレセン(トレーニングセンター)への入厩、さらにその後の休養・立て直しまで、馬の一生をトータルでサポートする体制が整っています。 

充実した施設: 北海道に広大な敷地を持つ本場のほか、滋賀県の「ノーザンファームしがらき」と福島県の「ノーザンファーム天栄」という2つの大規模な外厩(トレセン以外のトレーニング施設)を持ち、最新鋭の調教施設や医療設備が完備されています。これにより、馬の状態に合わせて最適な環境で調整を行うことが可能です。

徹底した個体管理: 一頭一頭の馬に合わせたきめ細やかな管理と、科学的なデータに基づいた調教プログラムで、馬の能力を最大限に引き出すことに注力しています。

人材育成: 獣医師や装蹄師、厩務員、調教助手など、専門性の高いスタッフが多数在籍し、人材育成にも力を入れています。

クラブ法人との連携: シルクレーシングやサンデーサラブレッドクラブなどの大手一口馬主クラブに多くの生産馬を提供しており、これらのクラブ馬がノーザンファームの育成馬として活躍するケースが非常に多いです。「世界に通用する強い馬づくり」を掲げ、常に新たな挑戦を続けており、日本の競馬界を牽引する存在として絶大な影響力を持っています。

競馬-神がかり

アドマイヤドンの血統背景

アドマイヤドンは、母に名牝ベガを持つ良血馬です。母ベガは、ダービー馬アドマイヤベガやアドマイヤボスを輩出した日本を代表する繁殖牝馬であり、その血統は日本の競馬界に多大な影響を与えています。

父方の血統

アドマイヤドンの父は、アメリカのチャンピオンサイアーである**ティンバーカントリー(USA)**です。

ティンバーカントリーは、アメリカのダート路線で活躍し、G1のウッドメモリアルステークスなどを制しました。その産駒には、アドマイヤドン以外にも、日本で活躍したタイムパラドックスやアメリカで活躍したコメンダブルなどがいます。ダート適性が高く、スピードとパワーを伝える種牡馬として知られています。

母方の血統

母は、名牝ベガです。ベガは現役時代に桜花賞とオークスを制した二冠牝馬であり、引退後は繁殖牝馬として素晴らしい功績を残しました。

ベガの代表的な産駒には、以下のような馬たちがいます。

アドマイヤベガ:1996年生まれ。父はサンデーサイレンス。東京優駿(日本ダービー)を制し、クラシック戦線で活躍しました。

アドマイヤボス:1997年生まれ。父はサンデーサイレンス。重賞を3勝したほか、種牡馬としても活躍しました。

アドマイヤドン:1999年生まれ。本馬です。

ハープスター:2011年生まれの産駒ヒストリックスターの娘。父はディープインパクト。桜花賞を制し、凱旋門賞にも挑戦しました。ベガの母系をさらにさかのぼると、祖母にあたる**アンテイツクヴアリユー(USA)**は、Northern Dancerの血を引いています。また、その兄弟や子孫からも多くの活躍馬が出ており、非常に優れた牝系であることがわかります。

まとめると、アドマイヤドンは、父ティンバーカントリーのスピードとパワーに、母ベガが持つクラシックに強いスタミナと優れた血統背景を受け継いでおり、日本の芝とダートの両方で活躍できる素質を持って生まれた馬といえます。

競馬-神がかり

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です