ロータスランドが輝いた日:2021年米子ステークス勝利の軌跡
今週末、阪神競馬場ではしらさぎステークスが開催されます。このレースは、かつて米子ステークスとして親しまれてきたリステッド競走。その歴史を振り返る上で、2021年の米子ステークスを制し、その後の飛躍のきっかけを掴んだ一頭の牝馬、ロータスランドの鮮烈な勝利を忘れるわけにはいきません。あの日の衝撃的な走りを、今一度振り返ってみましょう。
ロータスランドの鮮烈デビューと、ハイペースの洗礼
まだあどけない2歳の9月、ロータスランドは新馬戦の舞台に立ちました。単勝2,9倍の圧倒的1番人気。その大いなる期待に応えるかのように、見事デビュー戦を勝利で飾ります。
続く2歳オープンのもみじステークスでは、後のNHKマイルカップ馬となるラウダシオンに直線で競り負け2着となりますが、その素質の高さは十分に示されていました。
しかし、暮れの2歳女王決定戦、阪神ジュベナイルフィリーズ(JF)では、彼女にとって厳しい洗礼が待っていました。鞍上に藤岡康太騎手を迎え出走したロータスランドは、逃げるレシステンシアをマークする形で2番手を進みます。しかし、この日のレースはとんでもないハイペース。1000メートル通過はなんと57秒5という、2歳牝馬のレースとしては驚異的なラップを刻みます。
結果、ロータスランドは最後の直線で力尽き、12着と惨敗を喫してしまいます。このレースは、レシステンシアが2006年のウォッカが記録した1分33秒1を更新するレコードタイムで、2着に5馬身もの大差をつけて圧勝し、3連勝で2歳女王に輝くという、まさに歴史的な一戦でした。ロータスランドにとっては悔しい結果に終わりましたが、この経験が彼女をさらに強くする糧となったに違いありません。
試練を乗り越え、覚醒の時へ:3歳から4歳にかけての飛躍
阪神ジュベナイルフィリーズでの苦い経験の後、ロータスランドは約5ヶ月半の休養に入ります。
3歳春に一度だけレースに出走し2着と好走しますが、その後は再び9ヶ月もの長期休養へ。度重なる休養は、彼女のキャリアにじっくりと時間をかけ、心身の成長を促すための重要な期間でした。そして、明け4歳となった2月、ロータスランドはついに本格的な復帰を果たします。復帰戦でいきなり2着と好走すると、続く1勝クラス、そして2勝クラスの特別競走を連勝し、その秘めたる能力を開花させ始めます。

米子ステークス:重馬場が味方した覚醒の舞台
勢いに乗って駒を進めたのが、オープンクラスのリステッド競走である米子ステークスでした。
当日は重馬場での開催となりましたが、2歳時に不良馬場のもみじステークスで2着に入っていたこと、そして稍重の馬場での連勝実績が評価され、格上挑戦ながらも堂々の2番人気に支持されます。この年の米子ステークスは、ロータスランドを含め3頭の4歳牝馬が人気を集めていました。中でも1番人気はスマートリアン、そして阪神ジュベナイルフィリーズで3着に入っていたクラヴァシュドールが4番人気に名を連ね、今後の牝馬戦線を占う上で注目のレースとなりました。
レースを引っ張ったのは、9歳ながらトップハンデを背負いながら逃げたベテラン、ベステンダンクです。彼はかつて6歳時にこの米子ステークスを逃げ切って制した経験があり、トウシンマカオの異父兄にあたる血統背景も相まって、その粘り強さには定評がありました。先行策を取ったロータスランドは、直線で粘り込みを図るベステンダンクを力強くかわします。
そのまま後続の追撃を振り切り、2着に1馬身以上の差をつけて見事に勝利を飾りました。2着にはスマートリアン、そして3着には粘るベステンダンクをゴール前でクビ差差し切ったクラヴァシュドールが入線。
結果的に上位を4歳牝馬が独占し、世代のレベルの高さを示すレースとなりました。この米子ステークスでの勝利は、ロータスランドにとって文字通り「覚醒」の瞬間でした。重馬場を苦にしない確かな能力と、ハイレベルなメンバーを打ち破った実力が、彼女を次のステージへと導いたのです。
勝利を支えた血統の力:ロータスランドのルーツを辿る
ロータスランドの快進撃を支えたのは、彼女が受け継ぐ優れた血統に他なりません。特に、米子ステークスでの重馬場を苦にしないタフネスと、最後まで伸び続ける持続力は、その血統背景から紐解くことができます。
彼女の父はアメリカのポイントオブエントリー。日本では馴染みが薄いかもしれませんが、彼は「ロベルト系」という、競馬ファンにとっては非常に興味深い血統の出身です。
ロベルト系は、日本で活躍したリアルシャダイ、ブライアンズタイム、そして「怪物」と称されたグラスワンダーなどを輩出しており、その最大の特徴は豊富なスタミナと、それを武器としたスピードの持続力にあります。ブライアンズタイム産駒には、三冠馬ナリタブライアンやマヤノトップガンといった名だたる名馬が名を連ねていることからも、その堅牢な底力が窺えます。
ロータスランドの母はリトルミスマフェット、そして母の父は「スキャットダディ」です。スキャットダディは「ストームキャット系」に属し、現代競馬においてスピードとパワーを伝える主要な血統の一つとして世界中で高く評価されています。
つまり、ロータスランドは、父から受け継いだロベルト系のスタミナと持続力、そして母父スキャットダディからくるスピードとパワーが融合した、非常にバランスの取れた血統構成をしていると言えます。米子ステークスで見せた、悪馬場でも衰えない末脚は、まさにこの血統的な特性が存分に発揮された結果だったのです。

競馬のロマン:血統が織りなす物語ここで少し余談を。
ロベルト系の代表産駒として挙げたナリタブライアンには、異父兄にビワハヤヒデがいました。
ビワハヤヒデは、引退レースとなった天皇賞・秋での敗戦まで、15戦連続連対という驚異的な記録を打ち立て、その間に菊花賞、天皇賞・春、宝塚記念といったGIを制覇。さらに、ダービーや皐月賞、有馬記念でも2着に入るなど、GI戦線で大いに活躍しました。
直接の兄弟対決は実現しませんでしたが、「もしこの2頭が同じレースを走っていたら…」と想像するだけで、競馬ファンの胸は熱くなります。
そして、ロベルト系の「怪物」グラスワンダーと、名手・的場均騎手のコンビ。的場均の2頭のお手馬エルコンドルパサーとの苦悩の選択、今も語り草です。
サンデーサイレンスが持つ「ヘイロー系」のスピードと闘争心、そしてロベルト系のスタミナと平常心。異なる特性を持つ血統同士が織りなすドラマは、いつの時代も私たちをワクワクさせてくれます。ロータスランドの血統もまた、そんな競馬のロマンを感じさせる魅力に満ちているのです。
米子ステークス後の活躍:さらなる飛躍と現在のロータスランド
米子ステークスでの勝利は、ロータスランドにとってまさに飛躍の号砲となりました。その勢いのまま、彼女は夏の新潟へ。
そこで立ちはだかったのは、当時3歳ながらNHKマイルカップ2着の実績を持つソングラインでした。斤量51kgという軽ハンデのライバルを相手に、ロータスランドは見事これを打ち破り、関屋記念で嬉しい重賞初制覇を成し遂げます。翌2022年には、京都牝馬ステークスも制し、重賞2勝目をマーク。
ちなみに、この頃にはライバルだったソングラインは、古馬になってから安田記念を連覇し、さらにはヴィクトリアマイルも制覇するなど、日本を代表する名マイラーへと成長を遂げていました。互いに高め合うように活躍する二頭の牝馬の存在は、当時の競馬シーンをより一層盛り上げてくれたと言えるでしょう。
ロータスランドはその後も、7歳になるまでターフを駆け抜けました。残念ながら、最後の出走となった高松宮記念まで勝利を手にすることはできませんでしたが、大きな怪我なく競走生活を全うできたことは、「無事是名馬」という言葉を体現するものであり、何よりの勲章です。
