【有馬記念】「記録」を凌駕する「記憶」と「執念」――伏兵2頭が描く下克上のシナリオ
2025年、中央競馬を締めくくる総決算・有馬記念。豪華メンバーが集結する中、下馬評を覆す可能性を秘めた「異色の2頭」にスポットを当てたい。
マイネルエンペラー:泥にまみれた“皇帝”が、中山の坂で吠える
13番人気:牡5・清水久詞厩舎
デビューから20戦。その歩みは決して華やかなものではなかった。エリートたちが歩む王道を横目に、条件戦で泥臭く賞金を積み上げてきた「遅咲きの華」。彼がようやく手にした重賞の称号は、まさにこの有馬記念と同じ舞台、中山芝2500mの**日経賞(G2)**だった。
13番人気という低評価は、8ヶ月の休養明けというブランクへの懸念だろう。しかし、その血に流れるスタミナと、長い下積みで培った強靭なハングリー精神を忘れてはならない。管理するのは、あのキタサンブラックを稀代の名馬へと育て上げた清水久詞調教師。
「タフな流れになればなるほど、この馬の根性が活きる」と、陣営の目には静かな闘志が宿る。冬の重い中山、心臓破りの急坂。他の馬が脚を止めるその場所こそ、ドブ臭く這い上がってきた皇帝が、最も輝く独壇場となるはずだ。
アドマイヤテラ:空を駆けた“無冠の勝者”、今度は盾を持って
6番人気:牡4・友道康夫厩舎
前走のジャパンカップ、ゲートが開いた瞬間に悲劇は起きた。落馬。ターフに取り残された鞍上・川田将雅を背に、空馬となったアドマイヤテラは、しかしそこから伝説を作った。
馬群を追い、自らの意思で先行集団に取り付くと、最後の直線では世界最強の猛者たちと対等に渡り合った。カランダガン、マスカレードボールとの激闘。記録上は「競走中止」だが、真っ先にゴールを駆け抜けたのは、間違いなくこの芦毛の馬体だった。
「記録には残らない、だが我々の記憶からは一生消えない。」
あのとき見せた脚色、そして世界を飲み込んだ闘争心は本物だ。今回はしっかりとその背にジョッキーを乗せ、正真正銘の「1着」をもぎ取りにいく。かつてない注目を浴びる6番人気。彼にとって、この有馬記念は「落とし物」を取り戻すための、聖なるリベンジマッチである。
【結び】
幻想のアドマヤ…
実績のマイネルか、幻想のアドマイヤか。冬の中山に吹き荒れるのは、苦労人の意地か、それとも奇跡の続きか。人気薄の2頭が4コーナーを回ったとき、中山競馬場は割れんばかりの歓声に包まれるだろう。
競馬-神がかり
清水久詞(しみず ひさし)厩舎の有馬記念における過去データ
まさに**「キタサンブラックと共に歩んだ栄光の歴史」**そのものです。
清水調教師は、このレースにおいて非常に高い安定感を誇ります。特筆すべきは、管理馬がキタサンブラック1頭であった時期の3年連続好走です。
清水久詞厩舎:有馬記念の全成績
清水厩舎としての有馬記念参戦は、現時点でキタサンブラックによる3回のみですが、その全てで馬券内(3着以内)を確保しています。
開催年 出走馬 人気 着順 騎手 備考
2015年 キタサンブラック 4番人気 3着 横山典弘 菊花賞制覇後の3歳時。逃げて粘り込み。
2016年 キタサンブラック 1番人気 2着 武豊 サトノダイヤモンドと歴史的接戦(クビ差)。
2017年 キタサンブラック 1番人気 1着 武豊
【データのポイント】
- 複勝率100%:過去3戦して[1-1-1-0]。一度も掲示板を外していません。
- 中山2500mへの適性:清水調教師はキタサンブラックでこのコースの攻略法を熟知しており、2025年の**日経賞(マイネルエンペラー)**でもその手腕を発揮しています。
- 「逃げ・先行」の意識:過去3走すべてでキタサンブラックは4コーナーを3番手以内で通過しています。中山の短い直線を意識した「前々での勝負」が清水厩舎の必勝パターンと言えます。
マイネルエンペラーへの期待値
- マイネルエンペラーは、2025年3月の中山2500m(日経賞)を稍重のタフな馬場で制しています。清水調教師にとって、キタサンブラック以来の有馬記念制覇がかかる今回、以下の「清水流」の仕上げが期待されます。
- ハードトレーニング:キタサンブラックを象徴した「栗東Cコースでの猛時計」に象徴されるタフな調教。休養明けでも、スタミナを削り出すような仕上げが施されるはずです。
- コース経験の活用:同じ舞台(日経賞)での勝利経験を最大限に活かし、内枠を引けばキタサンブラックのような積極策に出る可能性も十分にあります。
- 「8ヶ月のブランクは、清水厩舎なら『逆襲への充電期間』に変えてくる。」
- かつて日本中を熱狂させた「まつり」の再来を、今度はマイネルエンペラーという「叩き上げの皇帝」で狙っています。
