「夏の終わりを告げる新星」2023年新潟記念勝ち馬ノッキングポイント、その衝撃の勝利と未来|競馬-神がかり
2023年9月10日、夏の終わりを告げる新潟競馬場。大混戦のGIII新潟記念で、一頭の3歳馬が鮮烈な末脚でゴールを駆け抜けた。その馬こそ、ノッキングポイントだ。多くのベテラン馬や重賞ウィナーが参戦する中で、経験の浅い若駒が勝利したことは、競馬界に大きな衝撃と驚きを与えた。この勝利は、単なる一勝ではなく、彼の、そして新世代の馬たちの時代の幕開けを告げるものだった。
第1章:ノッキングポイント、その軌跡
ノッキングポイントは、父に新種牡馬ながら高い適応力とパワーを伝えるモーリス、母に2016年のオークス2着馬チェッキーノを持つ良血馬だ。G1馬を父に持ち、自身も重賞を制した名牝を母に持つこの血統は、まさにエリート中のエリートと言える。
デビュー戦では、その血統背景に違わぬ走りで快勝。しかし、世代の頂点を決めるG1・日本ダービーでは、勝ち馬のタスティエーラからわずか0.2秒差の5着と惜しくも敗れた。
この時のダービーは、2着に皐月賞馬のソールオリエンス、4着に後にG1大阪杯を2連覇するベラジオオペラが入るなど、まさに世代トップクラスが集結したハイレベルな一戦だった。この厳しい経験は、陣営にとって、そしてノッキングポイント自身にとって大きな試練となった。
だが、この悔しい経験が、彼の成長を促す起爆剤となったのだ。日本ダービー後、3ヶ月半の休養を挟んで心身ともに立て直されたノッキングポイントは、新潟記念へ向けて静かに準備を進めていった。

第2章:新潟記念、勝利の舞台裏
新潟記念の舞台には、前走でG1宝塚記念を走ったプラダリアや、重賞実績豊富なユーキャンスマイルなど、経験豊富な古馬の強豪が多数集結した。
ノッキングポイントは、ダービー後古馬との初対戦の3歳馬ということもあり、単勝2番人気、5.0倍という評価だった。1番人気には国枝厩舎の良血馬サリエラ(単勝2.5倍)が推され、決して本命とは言えない立ち位置だった。
しかし、レースは誰もが予想しなかった展開となる。スタート後、ノッキングポイントは5番手集団の中団でじっくりと脚を溜めた。この位置取りは、最後まで脚を温存するため、そして、長く良い脚を使える彼の特性を最大限に活かすための戦略だった。
そして、勝負どころの直線に入ると、ノッキングポイントは内ラチ沿いから一気に加速。ライバルたちをねじ伏せるかのような強烈な末脚で、抜け出すとぐんぐんと他を置き去りにして伸びてゆく。上がり3ハロンは33.8秒と、2着のユーキャンスマイルの33.6秒に迫る驚異的な数字を叩き出した。
勝利を確信した北村宏司騎手はレース後、「…いいスタートを切ってスムーズな走りで直線に向けました。すごくチャンスがある馬に乗せてもらえてよかったです」と語った。この勝利は、陣営がノッキングポイントの能力を信じ、ダービーの経験を糧に立てた緻密な戦略の賜物と言えるだろう。
第3章:ノッキングポイントの未来、そして引退
経験豊富な古馬を相手に勝利したことは、ノッキングポイントにとって大きな自信となった。この勝利は、彼が今後の競馬界を担う新星であることを証明したのだ。
今後、彼は秋のG1戦線、特に天皇賞・秋やジャパンカップといった大舞台での活躍が期待された。しかし、その輝かしい未来は突然終わりを告げる。4歳となったノッキングポイントは、夏の七夕賞レース後に右前繋部浅屈腱炎を発症したことが判明。他の部分の損傷も深刻であったことから、再起には長い時間を要すると判断され、競走馬を引退することとなった。
「古馬との対決」という最大の壁を乗り越え、いよいよこれからという時に、ノッキングポイントの物語は幕を閉じた。
第4章:血統

父:モーリス(グラスワンダー系)
父のモーリスは、現役時代に国内外のG1を6勝した日本を代表する名馬です。父にスクリーンヒーロー、その父にグラスワンダーを持つグラスワンダー系に属します。グラスワンダーはパワーとスタミナに優れた種牡馬で、その系統は日本の芝の中長距離で活躍馬を多く輩出しています。モーリス自身も、圧倒的な瞬発力と持続力を武器にマイルから2000mの距離で活躍しました。
母:チェッキーノ(キングカメハメハ系)
ノッキングポイントの血統を語る上で、特に重要なのが母のチェッキーノです。彼女は自身も2016年のフローラステークスを制し、優駿牝馬(オークス)で2着に入った実力馬です。
チェッキーノの父は、日本を代表する大種牡馬キングカメハメハです。キングカメハメハは、日本の芝・ダートを問わず、あらゆる距離で活躍馬を輩出する**「万能な血」として知られています。その母系にも、米国の名種牡馬Kingmambo**、そしてサンデーサイレンス系と相性の良い血を持つHappy Trailsがおり、非常に質の高い配合がされています。
ノッキングポイントの母系をさらに深く見ていくと、母の母(祖母)ハッピーパスは、サンデーサイレンスを父に持つ名牝です。彼女は自身の競走成績もさることながら、繁殖牝馬として優秀な子を多く輩出しています。このハッピーパスの血が、ノッキングポイントの能力を形作る上で重要な役割を果たしていると考えられます。
ノッキングポイントの母系の主な活躍馬
コディーノ: 祖母ハッピーパスの仔。2012年の札幌2歳ステークス(GIII)、東京スポーツ杯2歳ステークス(GIII)を制覇しました。
チェッキーノ: 祖母ハッピーパスの仔で、ノッキングポイントの母。2016年のフローラステークス(GII)を制し、優駿牝馬(オークス)では2着に入りました。
チェルヴィニア: 母チェッキーノの仔で、ノッキングポイントの妹。2023年のアルテミスステークス(GIII)を制し、2024年の優駿牝馬(オークス)(GI)を勝利しました。これらの馬が、ノッキングポイントの母系に連なる主な活躍馬です。
3代母ハッピートレイルズ(IRE)
ハッピートレイルズ(IRE)の主な牝系産駒
シンコウラブリイ(牝):ハッピートレイルズの直仔。1993年の**マイルチャンピオンシップ(GI)**を制し、同年のJRA賞最優秀5歳以上牝馬に選ばれた名牝です。
レディベローナ(牝):サンデーサイレンス産駒。繁殖牝馬として、優れた産駒を輩出しています。
ハッピーパス(牝):サンデーサイレンス産駒。2001年の阪神牝馬ステークス(GII)で2着。繁殖牝馬としてコディーノ(札幌2歳S、東京スポーツ杯2歳S)やチェッキーノ(フローラS)を輩出し、牝系の中心となりました。
キングストレイル(牡):サンデーサイレンス産駒。2005年の京成杯オータムハンデキャップ(GIII)を制しました。
タイキプリンセス(USA)(牝):Kingmambo産駒。繁殖牝馬として、重賞勝ち馬のシゲルヤッサマツリ(阪神カップ)などを輩出しています。
レジェンドトレイル(牝):フレンチデピュティ産駒。繁殖牝馬として、重賞勝ち馬のプリームス(ファルコンS)などを輩出しています。
クィーンズトレイル(牝):ディープインパクト産駒。繁殖牝馬として、重賞勝ち馬のロードウィリアム(共同通信杯)などを輩出しています。
これらの馬たちが、ノッキングポイントの母系に連なる主な活躍馬です。この牝系は、G1勝ち馬を複数輩出する名門として、日本の競馬界に大きな影響を与えています。
ノッキングポイントの血統は、父モーリスの持つグラスワンダーのスタミナとパワー、そして母チェッキーノを通じて受け継いだキングカメハメハの万能性、さらにはサンデーサイレンスの瞬発力という、日本の競馬界を代表する名血が凝縮された配合と言えます。この強力な血統背景が、彼が新潟記念で見せた驚異的な末脚と、古馬をねじ伏せる能力の源泉となったのです。
おわりに:繋がれる血、新たな道
ノッキングポイントの競走生活は短かったが、その強烈な末脚は多くの競馬ファンの記憶に深く刻まれた。引退後は乗馬として新たな道を歩んでいる。
母系の血統は優秀で、多くの活躍馬を輩出しており、種牡馬としての期待も囁かれた。
しかし、母父キングカメハメハという配合は、常にBMSランキングトップクラスであるうえに、血統内に「ヘイルトゥリーズン」を複数持ち、「血の飽和状態」が懸念されたのだと思う。サラブレッドの歴史は、「繁栄と衰退」の繰り返しでどれ程の繁栄をきわめた血統であれ、いずれは「血の飽和状態」に陥り衰退している。
そのため、種牡馬として成功する可能性は低いと判断されたのだろう、その道に進むことはなかった。彼の血は種牡馬として受け継がれることはないが、その走りは間違いなく競馬史に刻まれた。
ノッキングポイントの新潟記念での勝利は、単なる一勝ではなく、彼の、そして新世代の馬たちの時代の幕開けを告げるものだった。彼の短い競走馬生活が、競馬の儚さと素晴らしさを改めて私たちに教えてくれたと言えるだろう。