テルツェット クイーンS連覇の軌跡 ~ 北の大地で輝いた快速牝馬の真価 ~|競馬‐神がかり
はじめに:偉業達成の衝撃と再評価の時
北海道の短い夏競馬を彩る牝馬たちの熱き戦い、クイーンステークス。その歴史において、2021年と2022年の2年連続で同じ女王が北の大地のターフを席巻したことをご存知でしょうか。その馬こそ、テルツェットです。
彼女が成し遂げたクイーンS連覇という偉業は、単なる勝利の積み重ねではありません。函館芝1800mという特殊な舞台で、異なる状況のレースを勝ち抜き、その強さと適性を証明し続けたことこそ、彼女が真の名牝たる所以です。本記事では、テルツェットがクイーンSで魅せた圧倒的なパフォーマンスと、その連覇の背景にある強さ、そして彼女が競馬界に刻んだ足跡を深く掘り下げていきます。
2021年 クイーンステークス:衝撃の重賞制覇
クイーンS函館芝1800G3
レース前評価と陣営の期待
2021年の夏、テルツェットは当時4歳。オープン入りしたばかりで、重賞実績は春にダービー卿CTを勝ったばかりでした。
芝のマイル戦を中心に連勝を飾り、そのスピード能力は高く評価されていたものの、前走ヴィクトリアMで大敗した事や距離が1800mへの延長ということもあり、ファンからの支持はそこまで集まっていませんでした。
しかし、管理する堀宣行調教師は、このクイーンSを陣営にとって重要な目標と位置付けていました。豊富な調教量で知られる堀厩舎でじっくりと育てられ、持ち前の素軽さに加えて洋芝への適性も感じ取っていたのでしょう。「ここで重賞のタイトルを」という強い思いが、陣営にはあったはずです。
レース展開と鮮やかな勝利
小雨が降りしきる中迎えた本番。ゲートが開くと、テルツェットはスタートでやや遅れ最後方からレースを進めます。
函館は全周にかけて緩やかな起伏があり、3コーナーから4コーナーにかけての緩やかなスパイラルカーブの下り坂で徐々に加速。直線では馬群の中から抜け出すと、鞍上のルメールの手綱に応えるように緩んだ馬場の芝を弾き飛ばしながら鋭い末脚を炸裂させました。
メンバー最速となる上がり3ハロン35秒2の脚を繰り出し、先行勢をまとめて差し切り、見事クビ差で優勝。鮮やかな差し切り勝ちで、自身2度目の重賞タイトルを獲得しました。
この勝利は、テルツェットが単なるスピード馬ではないことを証明しました。中距離への対応力、そして函館の洋芝をも苦にしない類稀な適性が示された一戦であり、多くの競馬ファンに強いインパクトを与えました。
この勝利が意味するもの
このクイーンSでの重賞制覇は、テルツェットにとって大きな転機となりました。これまで秘めていたポテンシャルが一気に開花し、牝馬路線における新たな実力馬として名乗りを上げたのです。特に、洋芝への適性は、その後の彼女の活躍を予感させるものでした。
2022年 クイーンステークス:盤石の女王、歴史に名を刻む
クイーンS札幌芝1800G3
連覇への挑戦とプレッシャー
開催地を札幌に移しての連覇に臨む、前年の勝利により、テルツェットはクイーンSのディフェンディングチャンピオンとして、2022年のレースに臨むことになります。
当然ながら、ファンからの期待は高まり、他馬からのマークも厳しくなることは必至でした。連覇という偉業が、どれほど困難なことであるかは、歴史が物語っています。
特に、牝馬限定の重賞で同じ舞台を連続で制すことは、非常に稀なケースです。陣営には、前年以上のプレッシャーがあったことでしょう。
レース展開と揺るぎない女王の走り
連覇のかかる大一番、テルツェットは前年と同じく前走ヴィクトリアMで大敗から、復活戦となります。桜花賞2着の3歳馬ウォーターナビレラが1番人気に支持され、テルツェットはそれに次ぐ2番人気です。
最内の1番枠から発走し中団でじっくりと脚を溜める競馬を選択します。直線に入ると、しかし前には逃げるローザノワール、横にホウオウピースフルがぴったりと並んで抜け出す隙間は見当たりません。
のこり200mを切り、100を切り…のこり50m僅かにローザノワールと内ラチの間に光が差し込んだ!鞍上の池添謙一がゴーサインを出すのを待っていたかのように、瞬く間にトップスピードに乗りました。
隙間をを割って力強く抜け出し、先に抜け出し勝利を確信したサトノセシルと鼻面を並べてゴール板を駆け抜けてゆく…写真判定で1着テルツェット…ハナ差!見事クイーンS連覇を達成しました。
この勝利は、テルツェットが経験と実績を積み重ね、精神的にも肉体的にも成長したことを示すものでした。前年のような鮮やかさに加え、女王としての揺るぎない貫禄が加わった、まさに完勝と呼べる内容でした。
歴史的快挙の達成
テルツェットのクイーンS連覇は、2003,2004年のオースミハルカ、2012,2013年アイムユアーズに次ぐ同レース3頭目となる快挙であり、その名を競馬史に深く刻むこととなりました。
同じレースで2年連続勝利を飾ることは、コース適性、体調管理、そして何よりその馬自身の絶対的な能力がなければ不可能です。テルツェットは、そのすべてを高いレベルで兼ね備えていたからこそ、この偉業を成し遂げることができたのです。
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テルツェットの強さの秘密:クイーンS連覇を支えたもの
テルツェットがクイーンSで歴史に残る連覇を達成できた背景には、いくつかの要因が挙げられます。
血統背景から見る適性
彼女の父は、日本競馬の結晶とも言えるディープインパクト。そして、母の父は欧州のスピードとパワーを伝える**デインヒルダンサー(Danehill Dancer)**です。
ディープインパクト産駒らしい鋭い瞬発力と、デインヒルダンサー系が持つパワフルな底力が融合したことで、札幌の洋芝におけるタフな馬場や、上り坂での粘り強さといった、クイーンSで求められる能力を高いレベルで兼ね備えていました。特に、洋芝でスピードを持続させる能力は、彼女の大きな武器でした。
堀宣行厩舎の管理と育成
テルツェットを管理したのは、国内外で数々のG1馬を輩出している名伯楽、堀宣行調教師です。堀厩舎の馬作りは、一頭一頭の個性を尊重し、じっくりと時間をかけて育成するスタイルが特徴です。
テルツェットの繊細な気性や体質を考慮し、無理なくステップアップさせ、レースごとに最高の状態で出走させる手腕は、連覇という結果に大きく貢献しました。
鞍上との絆とレースセンス
クイーンS連覇時、彼女の背中には**クリストフ・ルメール騎手(2021年)と池添謙一騎手(2022年)**がそれぞれ騎乗していました。特に、2021年のルメール騎手とのコンビは、お互いの信頼関係が深まっていることを感じさせるものでした。
テルツェット自身も非常に賢い馬で、レースの流れを読むセンスがあり、直線での加速も自ら判断して行っているかのように見えました。この人馬一体の走りが、連覇を可能にした大きな要因と言えるでしょう。
クイーンS連覇がテルツェットにもたらしたもの、そして競馬界への影響
クイーンS連覇という偉業は、テルツェットを名実ともにトップクラスの牝馬へと押し上げました。彼女の存在は、牝馬路線に新たな彩りを加え、ファンに強いインパクトを与えました。特に、夏の北海道開催を盛り上げる立役者となり、クイーンSというレース自体の注目度を高めることにも貢献しました。
彼女が示した「洋芝適性」と「持続するスピード」は、今後の種牡馬・繁殖牝馬選定においても、重要な指標となるでしょう。そして何よりも、テルツェットの粘り強く、そして美しい走りは、多くの競馬ファンの記憶に深く刻まれ、語り継がれる名牝としてその名を残すことになりました。
おわりに:テルツェットが残した蹄跡
北の大地、函館、札幌のクイーンステークスで2度輝き、歴史に名を刻んだテルツェット。
彼女が見せた圧倒的なスピードと勝負根性は、まさに快速牝馬の真価を示すものでした。
引退し、現在は繁殖牝馬として新たなステージに進んでいますが、彼女がターフで魅せた輝き、特にクイーンSでの連覇という偉業は、これからも多くの競馬ファンの心の中で生き続けることでしょう。
テルツェットの残した蹄跡は、これからも日本の競馬史に深く刻まれ、語り継がれていくに違いありません。